京都を代表する銘菓の一つ「味噌松風」。一見するとカステラのようですが、手にもつと思いのほかずしりと重く、口あたりはしっとりもちもちとしていて、控えめな甘さのなかに味噌の香りとコクが上品に広がります。
起源には諸説ありますが、京都でも随一の老舗として知られる「松屋常盤」では、紫野にある大徳寺の名僧・江月宗玩が考案し、伝授されたと伝えられています。宗玩和尚は織田信長や豊臣秀吉に茶頭として仕えた堺の豪商・津田宗及の子で、幼少より仏門に入り大徳寺156世となりました。侘茶を大成した千利休とも交誼があった当代一流の文化人であり、風雅な菓子の名も謡曲『松風』に由来しています。「浦寂し、鳴るは松風のみ」という一節を、「裏には焼き色が付かないので寂しい」という意に掛けたいわゆる言葉遊び。その趣向と味が茶人や公家、武家に好まれ、京から全国へと広まっていきました。いまも岐阜や愛知、山口や熊本などでさまざまな松風が作られており、沖縄では伝播の過程で変化したのか、生地を桃色に染めて芥子をまぶし、薄い板状にしてひねって焼いた菓子が「まつかじ(まちかじ)」の名で残っています。
承応年間(1652~1655年)創業の松屋常盤では、昔ながらの味が守られており、味噌松風の材料の配合や製法は一子相伝。小麦粉に西京味噌と砂糖を加えて練り、黒胡麻を散らして焼き上げた菓子は禅味豊かで、三千家や大徳寺にも納められてきました。御所出入りの店にのみ許された白暖簾を掛け、後光明天皇より「御菓子大将 山城大掾」の名を賜っています。謡曲『松風』が「熊野松風は米の飯(三度の飯より飽きがこない)」と言われるように、三百年以上にわたって飽くことなく愛されてきた菓子は、いま若き十七代目に受け継がれようとしています。
松屋常盤
京都市中京区堺町通丸太町下ル橘町83TEL.075-231-2884 ※味噌松風は3日前までに要予約